食品の食味の向上、河川の水質浄化、土壌の活性化等において、木炭のもつ効能が注目されています。特に桐の炭は、多孔質で微粒子の性質を生かすことにより、化粧品への応用にも期待できます。国産の桐と手作りの工程にこだわり、廃材を利用した桐炭作りに取り組む関根桐材店を訪ねました。

国産の桐へのこだわりと伝えられる伝統の技

関根桐材店ご主人の関根紀明さんに基礎研究部の吉川麻美が話を聞きました

国産の桐材を使ったモダンな桐たんす

埼玉県本庄の関根桐材店に足を踏み入れると、炭特有の優雅な芳香に包まれました。「桐炭は、いい香りがするでしょう」ご主人の関根紀明さんが桐炭を手にする。

「これが、昨日焼いた桐炭です」

桐炭を手に取ると、驚くほど軽く、ウバメガシを焼いた備長炭はずっしり重く、竹炭は硬くキンコンと音がします。
本庄は、江戸時代中山道最大級の宿場町として栄え、桐たんすは日光東照宮造営のため関西から集められた宮大工が街道沿いで高い木工技術を活かして作り始めました。「当店は明治33年の創業以来国産の桐にのみこだわり続け、私で4代目になります。桐は、主に秋田で栽培されているものを使っています。桐は東北地方や新潟など、米どころのものが良いようですね」

桐の貯木場には、丸太や薄板が並んでいます。「桐は樹液が多いので、風雨にさらしアクを抜きます。アク抜き中に木は反ったりねじれたり暴れ(変形し)ます。これを平にする作業も、昔の方法にこだわっています」

ご案内いただいた製材所には、さわやかな桐の匂いが立ち込めています。「製材では、材の特徴や木目を見て、外見や強度などを考え、材の使い方を決めます」 桐たんすはいくつかの工程をそれぞれ専門の職人が手がけ、仕上げに回ります。「たんす製造の仕上げは、仕上げ師とよばれる専門の職人が行います。当店ではすべて天然素材の塗料のみで仕上げています」

関根桐材店の桐だんすは埼玉県の「彩の国優良ブランド品」に認定されています。

「お茶の声を聞きたい」と語る向島和詞さん

桐工芸品が並ぶ関根桐材店の店内

自社自製の製茶工場も案内していただいた

関根桐材店ご主人の関根紀明さんに基礎研究部の吉川麻美が話を聞きました。

再発見! 桐たんすの優れた機能と秀逸性

「女の子が生まれると桐の苗を植え、お嫁さんになる頃には、たんすができる」と昔からいわれ、桐は成木になるまで20~30年と成長が早いことが特徴です。

「桐のたんすは、タンニンを含むため腐りにくく防虫効果に優れ、多孔質の組織が湿度に反応して膨張・収縮する防湿効果、多孔質ゆえの保温効果、着火点が高い難燃性、軽くて狂いにくい堅牢性などが特徴です」

国産の桐にこだわる理由は、「桐のたんすは、高価で大切な和服を収めるものでしょう。古くなったら削り直して、長く使っていただきたいので、本物の桐、日本の桐にこだわりたいですね」と伺いました。

桐板の表面は、うっすらと光沢を帯びすべすべしています。桐板からは、ほかの木材にはない、ほのかなぬくもりが感じられます。

【伐採】葉の落ちた晩秋か葉が出る前の春先に伐採します。

[伐採]葉の落ちた晩秋か葉が出る前の春先に伐採します。

【アク抜き】丸太で3年、板で数カ月風雨にさらします

[アク抜き]丸太で3年、板で数カ月風雨にさらします。

【製材】桐専用の製材機を使い高速回転で切ります

[製材]桐専用の製材機を使い高速回転で切ります。

【炭焼き】端材は約7時間かけて桐炭になります

[炭焼き]端材は約7時間かけて桐炭になります。

【粉砕】桐炭をきめの細かいパウダー状にします

[粉砕]桐炭をきめの細かいパウダー状にします。

【化粧品】桐炭を配合した製品イメージです

[化粧品]桐炭を配合した製品イメージです。

桐炭で水質浄化と土壌活性化 エコロジー活動を推進

「桐のおがくずは糊を混ぜて日本人形の頭部などに用いられますが、残りの端材には使い道がありません」と関根さん。
「桐の製材の作業で、材の切れ端がたくさん出ます。この廃材の処理は結構な金額になるし、かってに燃やすこともできず、製材関係者は皆困っています。対策を考えるうちに、炭焼きを思いつきました。調べれば調べるほど、木炭にはさまざまな効用のあることが分かってきました」

NPO法人「川・まち・人 プロデューサーズ」の理事も務められる関根さんは、最近の取り組みをこう語ります。

「ひとつは、桐炭を使っての河川浄化の推進です。多孔質の桐炭には、水の中の不純物を吸着する作用があります。また炭に付く有用微生物が、吸着した不純物を分解浄化してくれるようです」

さらに桐炭には、土壌活性化の効果が期待されています。「今日本全国で、松枯れやナラ枯れが深刻化しており、その対策として木炭が注目されています。樹木の立ち枯れの原因は、マツノザイセンチュウなど害虫による被害だけではなく、大気汚染による土壌の酸性化が大きな要因と考えられています。木炭にはミネラル分が溶け出すことで酸化した土壌を中和する作用があり、また多孔質なので土壌細菌のすみかとなって土壌の活性化に役立つのです。一方で木炭を畑に撒いて農作物の収穫高が上がり、食味が向上したり、さらに減農薬に成功したりと、木炭の土壌活性化効果は絶大のようです。私の桐炭が少しでも役に立てばと、今多方面で使っていただいています」

関根さんの桐炭活用の試行錯誤は、まだまだ続くようです。

桐炭の驚くべき吸着作用を化粧品にも応用

桐炭を乳鉢で潰してみると、パウダー状になってしまいます。きめがとても細かく、煙のような微粒子の粉末になります。桐炭は粒子が細かく均一であるため、古来懐炉灰や、銀製品・漆器の研磨などに活用されてきました。また昔は桐を細く切って先端を焼き、眉墨として利用したようです。

桐炭は、多孔質であるため、皮脂や角質等の汚れを強力に吸着します。特に桐炭は多孔質で軽く、他の樹種に比し体積に対して内部表面積が非常に大きいので、強力な吸着効果が期待できます。

桐炭の多孔質の孔は、臭いの分子も吸着するため、脱臭効果も優れている。大小さまざまな臭いの分子を、桐炭の微細な孔が吸着するため、消臭効果が期待できる。

また木炭に豊富に含まれるミネラル分(カリウム・マグネシウム・カルシウムなど)が水に溶け出し、水質の向上や料理の食味の向上などに役立つとされています。

廃材として処分されるばかりの桐の端材は、桐炭にすることによって、驚くべき潜在的なパワーを発揮しようとしています。

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